【770】原発と地震
下記ニュースが出ました。
毎日新聞 2016.7.27
原子力規制委員会は27日の定例会で、関西電力大飯原発(福井県)で想定する地震の揺れ(基準地震動)について、見直す必要はないとする見解をまとめた。規制委の前委員長代理の島崎邦彦氏が「計算結果が過小評価になっている」と指摘していたが、関電の計算結果は妥当で、現行の計算方式以外について「科学的・技術的な熟度には至っていない」と島崎氏の主張を退けた。
過小評価の原因と指摘されていたのは、関電が使っている「入倉・三宅式」。規制委事務局の原子力規制庁は「武村式」など、別の計算方式の妥当性を調べたが、予測の「不確かさ」を考慮する方法が確立されていないなどとする検証結果をまとめ、規制委の5委員が了承した。【柳楽未来】
◇専門家の指摘に耳を傾けて
一連の問題は、原子力規制委員会の専門性に疑問を投げ掛ける結果にもなった。
事務局の原子力規制庁は関電と同じ「入倉・三宅式」で、大飯原発で想定される揺れを再計算した結果、356ガル(ガルは加速度の単位)で、別の「武村式」では644ガルとなり、ともに関電の基準地震動(856ガル)を下回ったため「過小評価ではない」と判断。規制委が13日に了承した。
しかし、19日になって規制庁は「無理な計算だった」と事実上撤回。規制委が事務局の計算の妥当性を検証せず、追認していたことが明らかになった。今回の計算結果は関電の計算と食い違い、関電の詳細な計算過程を把握していなかったことも発覚。一昨年秋に関電の基準地震動を了承したが、審査のあり方にも疑問が生じた。
しかし、19日になって規制庁は「無理な計算だった」と事実上撤回。規制委が事務局の計算の妥当性を検証せず、追認していたことが明らかになった。今回の計算結果は関電の計算と食い違い、関電の詳細な計算過程を把握していなかったことも発覚。一昨年秋に関電の基準地震動を了承したが、審査のあり方にも疑問が生じた。
規制委の5委員の中には地質学者はいるが、地震動の専門家は不在だ。田中俊一委員長は27日の会見で、専門性の不足について「反省点としてはある」と認めた。一方で19日に島崎邦彦氏に面会した際には「(外部の)専門家の意見を聞く余裕もないし、その立場ではない」と言い切った。最新の知見を安全対策に反映させることが、福島事故の最大の教訓だったはずだ。外部の専門家らの議論や指摘に耳を傾けるべきではないか。【柳楽未来】
以前に熊本地震の結果を踏まえ、元原子力規制委員会の地震専門の島崎氏が「大飯原発の震度計算式」は過小評価であるとの意見を規制委員会に出しました。
私の記事参照
これに対し、規制委員会は「問題ない」との回答をしたようです。しかし、その根拠は極めて怪しいようです。
下記記事を参照下さい。
再び、地震学者の警告は葬り去られたのです。火山学者の意見も以前に無視されています。福島では津波の警告を無視されました。災害の専門家の意見を全て排除して、専門外者が都合のいい結論を出すのが規制委員会のようです。ワーストケースを考えて、それでも原発は安全か確認するというのが規制委員会の役目だと思います。それでなければ、規制にはなりません。原発では「想定外」というのは絶対に許してはなりません。田中委員長はかって、「基準を満たしているかどうかを審議しているだけで、安全とは申しません。」と自ら発言したように、目的を履き違えていると思います。政府は「専門家の規制委員会が認めたなら安全だ」と言います。実態は本当の専門家の意見を封じているのが規制委員会なのです。
経緯をまとめてみました。
原子力規制委員会に所属していた唯一の地震学者の島崎氏は、2014年に再任されなかった。
後任には原子力学者が入り、地震学者は現在はいない。
(元々、島崎氏が委員に入ることは原子力業界は反対していた。)
2016/4月熊本地震発生。
6/16 島崎氏が規制委員会に熊本地震の解析を踏まえ計算のやり直しを申し入れ
(従来方式は別方式の1/4程度の震度)
7/13 規制委員会が再検討結果提出 従来方式 356ガル、別方式644ガルで基準856以下
で問題ない。委員長は「島崎氏も納得した。」と発言。
7/15 島崎氏反論
従来方式で関電の計算値は596であった。
規制委員会の356は低すぎる。パラメータ設定がおかしいのではないか。
規制委員会での結果(新方式が1.8倍)と関電の596から考えると
別方式では596x1.8で1080程度になる筈である。
現行基準は関電の結果に安全係数1.5をかけて856としている。
同じことを新方式で行ったら、1080x1.5で1550ガルが基準であるべき。
規制委員会の数値が正しいとしても、基準値は644x1.5=966であるべき。
7/19 規制委員会は計算(356,644)は不適切だったと撤回。
7/19 島崎氏と規制委員会が面談。議論は平行線。
7/27 規制委員会は基準は変更しないとの決定。
これを見ると、規制委員会は自らの計算の過ちを認めながらも、最終的には島崎氏の意見を「学問的に確定していない」と退けました。専門性の無い規制委員会が専門家の意見を力づくで否定したのです。
原発は万が一にも過酷事故を起こしてはなりません。そのための安全基準が実は専門家の意見を無視して策定されているのです。火山でも同様です。熊本では現にありふれた規模の地震で1500ガルが観測されているのです。柏崎でも2000ガルが中越地震で観測されているのです。どうして大飯は856ガルでいいのでしょうか?
非常に素朴な疑問です。
7/13の結果は本当に幼稚なレベルの発表です。新方式でも基準値以下になるようにパラメータをいじったと取られても仕方がありません。こんな結果が堂々と出てくるような組織は信頼できません。規制庁が作成した原案を規制委員会はそのまま通して、後で撤回する羽目になっているのです。しかも、間違いを認めつつも申し入れは拒否しているのです。
冒頭の記事でも、田中委員長は「専門家の意見を聞く余裕もないし、その立場ではない。」と開き直っています。こんなことで本当にいいのでしょうか。「その立場」の筈です。火山学者にも教えを乞いに行かなければならない立場なのに、「火山学者は夜も寝ないで観測を続けろ」などと暴言を吐いています。
何かもう絶望すら感じます。
問題の断層の図です。
その衛星写真です。まっすぐ断層地形があります。実は私はこの小浜市出身なのです。これが断層とは思っていませんでした。
ところで、余談ですがこの断層地形が名古屋の雪をもたらしているというのを以前に記事にしました。この断層谷を吹き抜けた雪雲が、琵琶湖を越え、関が原を通って名古屋にまで到達するというものです。
雪雲の様子です。小浜、関ヶ原を通った雪雲が名古屋まで到達しています。更に通り抜けた風は太平洋で湿気を吸い、伊豆沖で再び雪雲になっています。
追記
この島崎氏も規制委員会の委員だった時には、火山学者の申し入れに対し、次のように対応していました。
マグマの増加を観測できない場合もあるとなれば、カルデラ噴火の可能性が「十分低い」という前提自体が怪しくなる。9月の第2回会合で藤井氏が そう指摘すると、進行役の島崎邦彦・原子力規制委員会委員長代理(当時)はこう答えた。
「そこまでさかのぼって全部ひっくり返してしまうと、この検討チーム自体が成り立たなくなると私は思っていますので、現状から出発していただきたいというのが私の考えですね」
指摘に正面から反論するでもなく、もう決まったことだから覆すなという。これでは「安全神話」に寄り掛かった3.11前と変わらない。
島崎氏も決して原発反対論者ではなかったのです。自分の専門外には冷淡でした。そんな氏も、科学者の良心から今回の申し入れをしたのだと思います。